うなぎに倚りかかる

前回のブログで、体が不調に陥るとネガティブマインドがもれなく付いてきて、きまって “健康の味” について考えさせられることになる…というお話をしたのですが、不調でなくてもそれを痛感するシチュエーションがもう一つあります。

それは「定期検診で順番を待っている病院の待合室」

 

30歳を過ぎた頃から、何となく歯科と婦人科には定期的に通って事なきを得てきたのですが、今年に入って眼科が正式に仲間入りしてしまいました。

15年ぶりくらいにめがねを作り替えに行ったことが全ての始まりで、緑内障や脳疾患の疑いから紆余曲折を経て、先天性だと診断された話は2月のブログでドラマ仕立てに書いたのですが、加齢とともに眼の病気のリスクが上がるのは事実なわけで、結局、定期検診という名の眼科通いが追加され、昨日しぶしぶ行って来たのでした。

 

私にとって病院の待合室での時間というのは、当然明るいわけがない周囲の空気にのまれるせいか、“最悪の結果になったらどうしよう” 的なスーパーネガティブどうしよう星人が必ず現れることになります。

そこに、 “獅子座のあなたはライオンハートを持っているではありませんか!” などと、絶妙のタイミングで獅子座星人が入ってきて、星座占いを頼みにチキンハートをもみ消しにかかる…という恒例の一人やりとりが佳境に入ったところで、名前を呼ばれる・・・というのが定番なのですが 笑、昨日は混んでいてなかなか呼ばれませんでした。

 

そうなると、”アンミカさんならこんな時も超ポジティブマインドでいられるんだろうか…” などと新たに考え始めてしまい 、いよいよヤバくなってきたところで、突如として聞こえてきたのが「そうだ うなぎ、行こう。」という天(=たぶん私)の声。そしてやっと名前を呼ばれた声。

 

おかげで頭の中は、「うな丼の特上を頼んじゃおうかな。。いやいやそれなら並を2回食べた方がいいよな。。」などと検査の直前まで鰻一色になり、気のせいか調子よく集中して憂鬱だった視野検査を受けることができ、“上手にできてますね~!” などと褒められて途中ニヤけてしまいました。

 

結果、今後は半年から年一の検査でよくなるというタナボタ感を味わい、近所に移転してきた、超絶安くて美味しい鰻屋さんのうな丼(並)を二日連続で味わい、そしてもちろん健康の味も味わう・・・という美味三昧の週末を過ごすことができました。

 

 

 

起こってもいないことにビクビクして恐れを抱き、時にうなぎに倚りかかってメンタルをコントロールしている自分を思う時、真のライオンハートを持つ人に尊敬の念を抱いてしまうわけですが、詩人でエッセイストでいらした茨木のり子さんが、73歳の時に出された詩集「倚りかからず」を読むと、彼女はそんな心の持ち主だったのではないかと思わされます。

 

若くして戦争や近親者の死といった壮絶な体験をしたことが、数々の作品で滲み出る強さや負けん気、怒りや国への不信感といった感情に影響を与えているのが伝わってきます。

そしてこんな境地に達した人の目に、世界はどんな風に見えていたのだろうか? などと思わずにはいられなくなるのでした。

 

もはや

できあいの思想には倚りかかりたくない

もはや

できあいの宗教には倚りかかりたくない

もはや

できあいの学問には倚りかかりたくない

もはや

いかなる権威にも倚りかかりたくはない

ながく生きて

心底学んだのはそれぐらい

じぶんの耳目

じぶんの二本足のみで立っていて

なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば

それは

椅子の背もたれだけ

 

出典:茨木のり子「倚りかからず」より